とある夏の日
「縁日に行こうよ」
終業式が終わって、夏休みに入った直後の寮への帰り道、綾瀬は隣を歩くルームメイトに呼びかけた。
「縁日?」
綾瀬より頭一つ分高いその少女は、今聞いた言葉を繰り返しつつ問いかけるようなニュアンスで応えた。
「そう、今夜あるんだって。ねえ、行ってみようよ」
綾瀬は楽しみでたまらないといった表情で隣の少女に笑いかけた。
「縁日かぁ……」
綾瀬の隣を歩いていた少女は、ふと立ち止まり、少しの間黙考した。
(縁日なんて、子供の頃以来だなあ。それに最近、あまり綾瀬と出かけたりしなかったし……)
「いいよ、行こうか」
「うん♪」
「ただいまー」
「あ、おかえり」
綾瀬のルームメイトである少女、望が買い物袋を提げて二人の部屋に戻って来た。
夜までは、まだ時間があるので二人は部屋でまったり過ごすことにしていた。
「それにしても、いくら夏でも今年は暑すぎるよね」
そういって、望がぼやいた。
「じゃあ、買ってきたアイスすぐに食べようか」
「賛成ー」
自分はストロベリー、綾瀬にはバニラを振り分けると、望は猛烈な勢いでアイスを食べ始めた。
「あー、生き返ったー」
上機嫌でアイスを頬張り続ける望を見ながら綾瀬は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ねー、そっちも味見させてくれる?」
「いいよ」
「ありがと」
そう言うと、綾瀬は、カップを差し出した望の手をすり抜け、素早く望に口づけた。
「甘い、ね」
二重の意味でそう言うと、綾瀬はクス、と笑った。
「綾瀬――――――!!」
「きゃー♪」
望は突然の不意打ちに顔を真っ赤にして叫んだ後
ゴッ
軽く(?)、綾瀬の頭を小突いた。
「まったく、油断するとすぐこれなん……」
だからと言おうとして望は気付いた。
「綾瀬、顔、少し赤くない?」
「え、そんなことないよ」
綾瀬は小突かれた頭を抑えながら答えた。
「でも……」
それでも望は気になったが、綾瀬が
「平気、平気」
と言うので、渋々黙った。
そして、その夜
「……で」
望は一呼吸置くと自分の手元にある体温計を見ながら言った。
「強がった結果がこれ?」
「う゛〜〜〜」
明らかに足元がおぼつかないのに縁日に行こうとする綾瀬を押し留めて
望は綾瀬に熱を測らせた。
体温計の表示は38度を指していた。
「縁日〜〜」
「あきらめなさい」
ベッドの中で、あきらめ切れない様子の綾瀬にピシャリと言い放ち
望は頭を冷やすためのタオルを絞っていた。
「縁日はまた付き合うから今は寝てなくちゃ」
「……うん」
「あたし、ちょっと薬買いに行って来るね」
そう言って、出かけようとした望だったが
「お?」
不意に服を引っ張られて動きを止めた。
振り返ると綾瀬が心細そうに上目遣いで見つめていた。
「ここにいて」
綾瀬のその姿は普段よりとても弱々しく、望は思わず
「うん」
と答えていた。
それからすぐに綾瀬は規則正しい寝息を立て始めていた。
望はしばらく読みかけの小説を読んだりしながら時間を潰していた。
「望ちゃん」
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
灯りをちょっと眩しくし過ぎたかなと望が思っていると綾瀬が口を開いた。
「ごめんね、迷惑かけて」
申し訳なさそうに綾瀬が呟く。望は
「バーカ」
と呆れたような口調で言った後
「好きな人のためだもの。迷惑なんかじゃないわよ」
と、穏やかな声で囁いた。
「つまんないこと言ってないでまだ寝てなさい」
「うん♪」
望は「おやすみ」と呟くとそっと綾瀬の頬に口づけた。
「完・全・復・活♪」
次の日の朝、綾瀬の体調は完璧に回復していた。
そのかわり……
「ハックション」
「う〜」と唸りながら望は鼻水をすすっていた。
「人にうつすと治るって本当だったみたいね……」
「アハハ、ごめんね」
「今度は私が看病してあげる」
そう言うと、綾瀬はおもむろに望の服に手をかけた。
「って、何、脱がせてんのよ!?」
「えー、だって、汗拭かないと♪」
そんな、とある夏の日の出来事――
あとがき
一応、百合サイトを目指しているのにあまりに百合分が少ないので補充しました
綾瀬と望、この二人は自分の中で一番付き合いの長い人物達です
この作品は私の嬉し恥ずかし(当社比1:9、抹消したい過去その1)初同人誌で描いたものを
超短編小説として書き下ろしたものです
あー、久しぶりに文章書くと難しいなー(言い訳)
この二人のお話は昔、一応完結させてるんで、できれば加筆修正を加えて発表したいです
ちなみに、「甘い、ね」の二重の意味とはアイスが甘いのと
あっさり唇を奪われて甘いねと言う意味です。
分かり辛かったと思います。すみません、文章力不足ですOTL
今後も何とかイラストでもお話でも百合作品を増やしていきたいと思います
精進、精進